心臓が、きゅうきゅう音立てて、けれどゆっくり、けれど急速に、気持ちわるいくらいに冷えていく。
スポンジが水吸うみたいだ、起はそこまで思って、ナカの胸元を見た。
「…なに?」
「なんも」
ナカの心臓。ナカの心臓が、ことこと動くのを見つめる。うすい肌にまもられて、生きてる。
「…なか、」
「はい」
「リボン、ほどけてるよ。」
「えっ?!」
飛び起きたナカの頭がぶつかりそうになって、あわてて避けた。あぶねえなあ…、つぶやいてから顔を見ると、何言ってんのと言わんばかりの目を自分に向けていた。「ほどけてへんやん」
「アレ?そう?」
「…」
「いや、ほどけてる」
「いやいやいや」
「なか」
「はい」
ほどけてるから、結んでいい?
起が言う前に、ナカは起の左手をとる。実際、リボンがほどけていようがほどけてなかろうが、どうだっていい。そういう時もある。
彼はリボンを結ぶときはこっちが恥ずかしくなるぐらいにバカ丁寧だったが、“結ぶ必要がないとき”にさわる時は、翌日の体調が気になるぐらいに自分勝手で、乱暴だった。
でも、こういうふうに、ほどけていないのに「ほどけてるよ」と言い張ってさわる時は、そっちでもこっちでもない、なんだか不思議な触れ方をする。
ナカはそういうときの起はいまいち好きではない。自分だけが置いてけぼりのようで、なんだかおそろしくなってしまうのだ。
私ははじめて彼に会うのに、彼はまるで、もう何百回も何千回もわたしのすべてに手を這わたような、そういう置いてけぼりの気分。
「ほどけてるから、結んでいい?」
起がうらめしそうな目つきでナカを見つめる。
だから、ナカは黙って起の鎖骨にくちびるを這わせた。
(ひとりだけ初恋/起・なか/okey-dokey)(2014年のやつ)