相似とそれぞれの差異に関する考察その13(永見)

それは程々変わらないのだ。永見は思うと、最後の一滴を頭に被った。掻き上げて水気を切り、タオルでじゅうぶんに拭く。火照った身体は水分を欲しがった。つめたいものがいい。しみこむ ような 。
ここには誰もいない。


あの女はなんちゅうたっけなあ
老女は懐かしそうに、否、可笑しそうに薄く笑った。
ほら、お前の
その言葉の続きを聞きたくはなくて、右手中指の爪が、頑丈な壁にぶつかった。ツ、と、硬く音を鳴らし、壁の温度が伝わって、まるで爪先が凍える。
総帥は無意識に気付き、視線がそれを追った。外したあと、また永見の右手の爪を見た。イギリス人やったな。ピントが合うか合わないか、ぎりぎりのところで凝視し、口にすれば、永見は あっとした気持ちになった。
聞きたくはないのだ。

ぼうっと顔を向けると「佇むのは死人だけなんだよ」
それを教えたのはロイさんで、傍にいたのは沁屋さんで、後からやってきたのはエドワードさんだった。
だからあまり見ないほうがいいよ。ロイは永見をゆっくりと見、笑むように眼をわずかに細める。永見はどの事を言われているのか、瞬間分からなくなり、眉を顰めそうになった。傍にいた沁屋は、それこそ眉を顰めて笑う。クツクツと喉を鳴らすと、伏せた瞼に生える睫毛がかすかに揺れた。あまりにも唐突な気がして、永見は頭と口が回らない。そうですか、と、その五文字でさえ口に出来ない。あんまりにも、ぼうっとして、エドワードは怪訝な顔をした。どうかしたのかい、後天的ではなく先天的な黒い手で、永見の背中をさするように触った。 、身が固まる。溜まってもいない唾を呑み込むと、それは鼓膜に大きく響いた。
分かっているんだそんなことは。

こわいの?
獣がじっと見詰め、その眼球や表情、唇に、無辜な気持ちになった。それは我にではない。彼女に、だ。
「大丈夫」
細めて笑う彼の顔に、ウォンはほとほと嫌気が差し、ククゥはなんとなくどこかへ嫉妬して、終は、終は、

ひどく泣きたくなる。お前のそんな顔なんて見たくない。終は言わないことはせず、口にして、たかひとの頭を撫で回した。
耳の上でくすぐる手。随分と小さい。泣きたくなると言っておいて、既に泣いているではないか。そう思いながら、たかひとは終の顔をじいっと見た。すこし、呆然とする。なぜあなたが、と思うのではない。なぜあなたが、オレなんかの傍にいてくれるの。


ゆっくりと瞬きするそのスピードで、永見はそう、思う。
ほんとうにほんとうにあなたをあいしてしかたがない
伏せきると、滲みきったそれがひとつ、零れそうになった。
けれどほんとうに、ここには誰もいないんだよ。
温度で冷たくなってしまったタオルで、瞼を乱暴にぬぐう。