ページの抜けてる日記帳(永見とノキア) |
「ノキアは、」 純真無垢な子どもの様な眼をした子でした。 ジョナはひどく、ため息をつくような思いで、その分厚い唇を開いた。眼は依然笑わず、どこか俯いている。 純真ゆえに、と 言うでしょう? 一瞬 視線だけで永見を見る。おののく事はしなかったが、頭を僅かに退き、じいっと眼を見詰め合わせた。純真故に、傍を眼中にも入れず追いかけ続ける事が出来るのだ。永見はジョナのその、薄曇った真っ黒い眼を見詰めた。決して自意識過剰などではないですが、と前置きする。 あの子は私を愛していました。 いつのまにか外されていた視線に、空気が冷える。それを自らの眼で追うと、ただ単に見下ろす事になった。肩書きも年齢も、自分より上にいるのにも関わらず、その敬ったような口調は、きっと口癖に変わっているのだろう。長く縮れた髪が、小さく顔に掛かる。前髪はまるで、その眠たそうな眼を隠しているようだった。 「愚かだったのです」 はっきりとした言葉。俯いた眼界に、永見は一瞬めまいがした。愚かだったのです、そう口にする。思わず自分は、そんな事は無いでしょう、と言いそうになった。純真無垢に、傍を眼にも入れず、愛する事はそんなに愚かな事ではない、そうでしょう? ジョナはぐるりと視線を回して、そして目の前の男を見上げる。 「…私は 愚かだったのです」 あの子を、見守っていた。ただ、それだけだった。 彼女はたまに私をじいっと見詰め、その輪廻した眼球を私にくれる。抽象などではきっとない。贈るということに近かった。じいっと見詰め、私の名を口にする。すれば、甘い音色。 「帰りましょう ジョナさん」 永見は伏せるに程近い、ジョナの瞼を見た。一瞬、泣いているのかと思う。ただ、頭を傾け、表情を覗く事はしなかった。 ただ単に、思い出す。“彼”の言う純真無垢な彼女を。頭や目の裏に思い起こせば、酷く白い肌をしていて、ふいに、ククゥを想った。決して白いとは言えない肌の色をしていたが、眼の色が白いのだ。口にして相手に伝えればきっと、そうではない、と反論するかもしれない。それでも 想う。眼球の中心から、ほんの小さな中心から何か光が出ているとすれば、彼女のそれは光よりもずっと白い。だから自分は焼き焦がれてしまうのだろうし、その方がずっと良い。受け止めて、自分の眼球の中心のそれが同じように真白になるよりも、胸や心臓が貫かれて背中のずっと先まで、その白い線が存在している。縛られたり、掴まれたりするのではない。貫かれ、その部分だけは何にもないのだ。 彼女の白い、おもい以外は。 自分の名を呼び上げる声が、つん、と聴こえるようだった それは眼球まで響き、涙をつくりだす 私たちは白以外の何色かで、彼女達を見詰め続ける 想い出すように |