「運が良い」
と言う。

「お前は運がええ」
何の話かと思いながら正樹はふらりと後ろを振り返った。さっき見たときは彼も軽く後ろを向いていたが今見ると村崎は自分のほうを見ているではないか。何の話かと思い真っ直ぐ村崎を見た。

「なにが、」

我ながら素っ気ない態度である。村崎は、ふっ、と口の端を持ち上げ、そのまんまの意味やけどー、と返した。奴の悪いところはこれだと思う。真剣な話をしだしたと思えば一瞬のうちにいつもの“あの”顔に戻るのだ。
正樹は何とも言えない気持ちになって21秒前向いていた方に身体を向き直した。そしてそのまま、少しだけそこにいて、もちろん無言だったのだが、そこにいて、一つ息を吐いた後何事もなかっかのようにすたすたと歩いて行った。
自分の背中の方から村崎が何か云ったような気がしたが、その言葉を理解する気もなく正樹はすたすたと歩き続けていた。