獣の背には傷。自分の不注意で負わした。俯く。俯いて眼に映るのは包帯のような白い床。ふと、左手に巻いてある包帯に気付く。じんわりと血が滲むようなことはなかった。軽い切り傷だ。無論、獣が負った傷も大した傷ではなかったが、佐藤にしてみれば大した傷だった。殺したくなる。自分を。自分が憎い。粋がるな、と誰かに言われたのを思い出し、ああ、そうか、自分は粋がっていたのか、と無表情になる。人にしてみればこの佐藤という少年のような青年は、いつも無表情みたいなものだった。眼が笑っていない。死んだ眼、というよりも、腐った眼。その眼を獣が覗こうとする。 「佐藤さん、」 あっ、として顔を上げた。彼女はどうも困ったような顔をしていて、一瞬申し訳なくなるが顔にも声にも出ず、なんじゃ、と見る。顔、赤い、と途切れ途切れに言えば、獣の手が佐藤の頬に触れる。気付いて、赤いか?、自分も額を触ったがよく解からなく、熱なんぞ無いけえ、と言った。獣は、うーん、と首を捻り、せんせいー、あ、せんせいはいないんだった、ミレイユさーん、と普段の声よりは大きめで呼ぶ。 すぐにパタパタとサンダルを鳴らしながら、はいはい、と医療科副科長が来る。ミレイユさん、佐藤さんが赤い。あら、本当ね、熱かしら、佐藤くん測ってみてくれる?。言って体温計を差し出す。本当は医者は嫌いなのだ、と思い、嫌そうな顔をした、のがばれたのか「酷くなってからじゃ遅いから、ね?」と微笑。渋々佐藤は預かった体温計を脇に挟むと、獣の眼がきらきらと輝き、あ、あ、わたしもしたい、です、!、と申し出た。笑って、はい、どうぞ獣くん、ともう一本あった体温計を獣に渡した。即座にみようみまねに脇に挟むと、自分の横にあったイスに座った。にかー、と満面の笑み。思わず、ふ、と笑う。それを見てまた獣が、うふふ、と笑うので、佐藤は自分の眼の奥らへんが熱くなるのを感じた。泣きはしない。泣かない。泣けない。そう感じただけであった。 |