偶然としか言いようがない。 何しろ二人とも、会うのを気まずく思っている。ややなあ、と思ったのは早見で、ああ、と思ったのは乃良だった。けれど、挨拶をしよう、と思ったのは早見で、会釈をしてすぐに行こう、と思ったのは乃良のほうだった。 乃良が頭を下げながら通り過ぎようとすると、早見は男にしてはすこし高いような声で、こんにちは、と紳士的に言った。うわあ、と乃良が思う。まさかしゃべりかけてくるとは、と思い、どないしょ、と焦慮する。反射的に、あ、どうも、と短く会釈した。眼に早見の顔がうつる。女顔だなあ、ととっさに思い、その後、こんな顔やったっけ、と思ったが、格別なにも言わない。早見は乃良の顔よりも大まかな印象の方がつよかった。ころころと顔を変える子供。怯えた顔をしたかと思えば雄のような顔をして、泣きそうになったかと思えば呆けたような眼で何もしゃべらなかった。そういうような記憶しか、この男の頭にない。 足を止めているのは二人ともどうすればいいかわからない、という思考で、付け加えて二人とも急ぎの用などなかったからだ。それでも乃良は、早く立ち去りたいな、と思い、早見は、何をしゃべろう、と思っていた。そういえば乃良は、早見を偽善者としての同情をしている。 |