しょうもないな、と日見子は思うと拳についた血を洗い流してしまった。ホースの水が、ふっ、とズボンにかかるが格別何かする事もなく、立ち上がり、足を一歩前に出した。それを見た美禄が軽く見上げると、ヒミコ、と軽く呼ぶ。振り向いて返事をすることはなかったが、足は止まった。どこへ、と訊ねる。

「七条――」
短く云った。余計なことは言わないようにしている。

七条、と言われ即座に脳裏に浮かんだのはあの少女しかない。ならば彼は菊の元へ行くのだろうと美禄は勝手に推測した。推測も何も、その通りなのだが。美禄はにっこり微笑み、いってらっしゃい、と可愛らしく手を振った。けれど日見子は振り返すこともなく行ってしまう。そこで気分が悪くなるなんてことはない。ああいう性格だと――少なくとも私と浅葱は――承知の幕だ。

どっと何か突然暇になり、美禄はあくびがしたくなった。したくなっただけで本当にすることはないのだけれど。喧嘩でも”買い”に行ってもいいが、暑くってそれどころではない。ああ、ほんとうに暑い。長い金髪を後ろで一括りにしてみるが、うなじが涼しくなるのは案外一瞬で、また暑くなった。
ふあ、とあくびのような屈伸を一度すると、忘れたころに浅葱の唇から白煙がゆれる。