「うそばかりつくと、いつか舌を抜かれますよ」 ゆるりと彼女の髪が舞う。夜の黒と溶け合って、どこからが、境界線なのかわからないけど。少し大山は苦笑して、誰にだい?と聞いた。また、ゆるりと風に吹かれる。わたしにですよ。と、黒が舞う。大山は、くくく、と笑った。彼の笑い方はこれが定着している。初めて聞く人は、必ずしも、気味が悪いと感じた。 あなたは笑ってばかりいますね、その笑い声に気付いて、小山が言った。小山は後ろにいる。顔なぞ見えない。しかし眉間にシワがよっているのだろうな、と大山は思った。「そうかい」また彼はくくくと笑った。 彼女は気にいらない。その笑い方が。いつもは気にならない。しかし今は気にいらないのだ。 「ゾっとします」「なにがだね」「その、あなたの笑い方が、」 風が吹いた。ばさばさとコートがなびく。そのあなたのわらいかたがきにいらないのです。小山の髪もばさばさとなびいた。大山は後ろを振り向く。小山はその行為に気付いているが、顔を上げない。大山は彼女の心境を知りながら彼女に近づいた。今ここにある黒のように、ゆっくりと歩いた。ぞくりと小山は震えた。空気が重い。顔は上げられない。 サイズの違う靴が向かい合う。大山は小山の耳に口をつけ、君はかわいいな、そのうち犯すかもしれんぞ、と囁いた。そして、くくく、と笑い、また前を歩く。 |